宮川剛

「こころや意識というものは脳の中にあり、脳がはたらくことによって生み出されている」ということについては、ほとんどの脳科学者は疑っていません。私もそのうちのひとりですから、自分とはこころのことであり、それを生み出しているのは脳である、という仮定を支持しているということになります。 神経科学的にいうと、脳にある多数の神経細胞の集団的活動の一部が、こころとして自分に感じられているものの正体です。 30億個の文字列=ゲノムは、私たちのからだをデザインしている設計図です。先に、「自分とはこころのことであり、それを生み出しているのは脳である」といいました。脳もからだの一部ですから、このからだの設計図であるゲノムには、脳の作り方のすべてが書かれているはずです。 ゲノムに脳の作り方のすべてが書いてあるということは、そこには脳が生み出すこころについての秘密も隠されているはず。こころを生み出す脳、その脳の設計図が30億個の文字列で書かれており、その配列は基本的に一生変わらないのです。つまり、ゲノムこそ、一刻たりとも同じ状態にとどまることなく変化し続ける自分と自分のこころの背景にあって、一生変わることなく、自分を自分たらしめているものの実体なのではないでしょうか。